やこの備忘録

感想になりきれないオタクの備忘録です。

『犬王』を観ました。

犬王を観ました。犬王は私の周り(三人)では賛否両論の賛が2人、否が1人って感じの映画だったんですね。そして私は概要を一切知らなくて……勝手にパプリカ系かと思ってました。私、整形水見た時もおんなじこと言ってたな。

結論から言うと賛否両論なのわかるな〜!って感じの映画でした。私は好き!
好きと言いつつ私は中盤にちょっとダレました。わりとエンタメに寄ってる作品にしてはテンポとか爽快感に重きは置いてないように感じたので、そっちを期待すると肩透かしで、その辺とかで賛否両論の否になった人もいるんじゃないかな。
あとちょっとホラー的な表現があるからホラー耐性がゼロの人間はビビるシーンあるかも。私は耐性ゼロなんで悲鳴あげました。あと歯がリアルなのでそういうの怖い人は無理だと思う。

概要としては盲目の琵琶弾き(友魚)と異形の呪いを受けた人間(犬王)が出会って二人で音楽やってこうぜ!平家の物語綴ってこうぜ!みたいな。
史実ベースなのかな?だから結末とかちゃんとした事件出来事なんかはしっかり存在してるけどそれ以外がやりたい放題すぎてすごい。ブレーキはちゃんとついてるのにそんなアクセルの踏み方する!?ストーリーだけ抽出するなら20分くらい短縮できそうなんだけど、ガッツリ歌唱パートが入っててそれが好きでしたね……

ネタバレあり。あとだいぶ語彙がオタクになってます。
ストーリーの話を全然していないので犬王を観た人向けの感想です。

まずライブパートもとい歌唱パートがすごい。
誰がここまでやれってGOサイン出したんだろう。特にお披露目ライブのライトアップとかすごかった。パプリカかと思ったらうたプリだった。異性装もメイクもかなりぐっときましたね……ベースをファンタジーとリアルどっちに振ってるのかわからないけれど、普段の動きが結構ぬるぬるとリアルな人間の動きだから『できなくはない』と『やらんだろそれは』のミックスで脳がバグっていきます。最初のライブが普通に『できる/ある』ライブなので余計に……徐々にこう、加速していくので……。
またここで主役二人の歌唱がすごくよくって!特に女王蜂のアヴちゃんさんは最高でした。本当に唯一無二の声を持っていらっしゃる……。主役二人の声の相性もすごくよくて、ハモリがめっちゃきれいなんですよ。
ただ歌唱パートはいわゆる平曲(語り音楽)なのでめちゃくちゃ疾走感があるとかではなくて、そこにガッツリ長尺を割く(上に、最初の方の曲はシーンのカットに使い回しがある)のでだれちゃうかもしれない。私はその一定のテンポがあの時代背景にあっているというか、今でいう伝統芸能を見ている感じでよかったですね。言うて曲にはいろんな楽器使い放題だから、時代考証してるとことしてないとこの切り分けの思い切り方が好きです。

そしてこの物語の肝である異形と盲目の出会い!こんなの嫌いなオタクいませんよ……(主語デカ)
お前もこの面を取ったら驚く。からのすまない、見えないんだ。の流れは教科書に載ってますからね。この二人の出会いのシーン、すごくよくって……
で、いきなりラストの話をすると、ラストは亡霊になっていた友魚を犬王が見つけて終わりなんですけど、その二人の再会のシーンが最初に二人が出会ったシーンと同じ演出なんですよ……めちゃくちゃよかった……

ラストの再会のシーンの話が出たから言うと、物語の中で何度か友魚は名前を変えるんですけど(友魚→友一→友有)、友魚から友一に名前を変える時に、亡霊になって見守ってくれてた(復讐をしろ!とかめちゃくちゃ言ってたから呪いの部類に入るかもしれない)父に「名前を変えたら見つけにくくなるから改名すんな」って言われてるんですよね。で、友魚は犬王と出会った時にはもう友一だったからそう名乗るんですけど、最期殺される時に自らを「壇ノ浦の友魚だ!」って名乗って息を引き取るんですよ。だから魂の名前が友魚になっちゃって、犬王はその名前を知らないから見つけるのに600年かかってて……600年も探し続けてくれたの、めちゃくちゃ愛じゃんね……

というか、名前って他者が自分を認識するためのかなりデカい要素じゃないですか。私は『人間は観測されないと存在できない』論が嫌いではない(好きな)のでそういうところも刺さりましたね。友魚は役割の移り変わりで名が変わっていったけど、犬王は最後まで犬王だったとこの対比とか、最後に友魚(復讐を親に命じられて旅をした子供)として生涯を閉じた友魚が、犬王が名を呼ぶことで琵琶法師としての自分に戻って本当の最期を迎えるところとか……よかったです……。

亡霊の親父の話ついでに言うと、主人公二人ってある意味父親から呪われていたのかなって思ったりしました。友魚の父親は多分支えにもなってたと思うけど。
友魚は亡霊になった父親が復讐しろ!って言うから旅を始めたけど、琵琶法師に弟子入りしてから琵琶やりたい!になって、琵琶法師連合みたいなとこからもらった名前である「友一」を名乗ることで父親との繋がりを薄くしていって(さっきの名前を変えると見つけにくい、ってくだり)自らの道を征く、みたいな。
犬王はもっと顕著でそもそも生まれからして父親が呪術的に生贄にしたから異形で産まれちゃったからモロに呪われてるし、その父親が因果応報アタックで爆散してから(ここ結構グロかった)呪いが全て解けてるので、そういうテーマもあるのかなと思いました。

あとだんだん犬王の体が通常の人体になるところすごいよかったですね。解呪条件が『成仏できなかった平家の魂の声を聞き、それを歌にして広めて弔うこと』なんですけど、それを知った時の犬王の声がすごく穏やかで……慈愛……って感じでした。俺が語って聞かせてやるからな……って、亡霊に言うんですよ。その声色から感じるのが献身的な深い愛じゃなくて、自分に自信を持っている強い人間が見せる優しさって類の慈愛でした。

あ!えっと、友魚ってざっくり言うと「もう歌うなよ!」って言われたけど歌い続けたから処刑されるんですけど、その時に枇杷を弾いていた両腕を切り落とされてから殺されちゃって、だから亡霊になってるときも両腕がなかったんですよね。友一も友有も琵琶法師としての名前だったから、琵琶を失ってその名前から余計に離れてしまって犬王も見つけにくかったのかな、とか、琵琶が弾けないから自我がふにゃふにゃの亡霊になっちゃったのかな、とかいま思いました。

あとは表現とか、単純に絵と動きが良くて映像作品としてすげーよかった。
盲目の人間から見た世界の表現とか好き!特に看板の文字を指でなぞっていったとき、ぼやけていた文字がなぞったところからハッキリと文字になっていく演出がすごい良かったなー。中盤はライブシーン中心に進むからその表現が少なくて寂しいけど、あれは音楽の世界にいたからまた視界が違っていたのかなって思ってます。最後とか琵琶を失った時とか盲目から見た世界の表現が入るので。
そういえば演出というか、なんと括っていいのかわからないのですが、友有がパフォーマンスするときに女性的なメイクしたり女性の衣服をめちゃくちゃ着崩して荒々しい男性の動きで演奏するみたいなシーンがあって、これ作った人、ご自分のお趣味を一切隠す気がない!?と衝撃を受けました。ライブパートといい、アクセル踏むところの思い切りの良さがすっげー……んだわ。

映像もきれいでぬるぬる動くし、音楽も歌唱パートもいいし、よいです。
疾走感を求めてる人、人間の歯がリアルだとテンションが下がる人には勧めません。

印象だと考察系かと思ってたし史実ベースっぽいから深掘りしようと思えば掘れるのかもしれないけれど、個人的には考えるな感じろ系かと思います。感じろというか、ストーリーはめちゃくちゃシンプルなのでそのシンプルな素朴さを噛み締めつつ、どれだけライブパートにのめりこめるかですね。シンプルなストーリーに音楽パートで魅せてくる……これRRRかも(絶対に違う)でもこれ好きな人、絶対に五右衛門ロック好きだと思うんですよね……。琵琶の音が入ったりとか、こう、動作ごとに音が決まるので音ハメ好きな人は気に入りそう。というか犬王好きな人、五右衛門ロックを観てくれ……。


あと、理由が全然わからないんですけど観ててすごいカロリー使いました。
体感5分!とかじゃなくてしっかり97分あります。


そういえばライブパートなんですけど、友有と犬王の二人を観た感動で泣いてる一般人がいてちょっと面白かったです。