やこの備忘録

感想になりきれないオタクの備忘録です。

『キャッチミーイフユーキャン』を観ました。

めちゃくちゃ有名でお噂はかねがねだったのと、好きなゲームの曲に同名のタイトルがあるのでいつか観たかった作品であるキャッチミーイフユーキャンを観た。ただ2時間30分はなかなか覚悟がいるな……と思って後回しにしていたのだが、いつものようにアマプラで見放題があと25時間以内になっていたので急いで観た。有名作品だけあって非常に面白かったし、SNSが普及する前の作品だからネタバレを見ることなく観れたのは非常に良かった。

 

空前絶後の詐欺師とそれを追いかけるFBIの話なのだが、詐欺師がまだ未成年だったとは想像もしなかった。私はおっさん2人のトムとジェリーあるいはルパンと銭形みたいなエンタメ作品だと思っていたが、かなりしっとりとしたお話だった。

順風満帆だった人生だが父親が差し押さえに遭い離婚→ショックで家出→お金のために詐欺を繰り返す……という感じで、最初の流れに乗ってからは詐欺パートとFBIのパートが交互という感じにちょくちょく父親とのやりとりが挟まるという感じ。

詐欺師の青年はとにかく度胸があって「堂々としていれば案外バレない」の体現だ。詐欺被害にあった人は悲惨な目にあっただろうがその人の描写はないので詐欺行為はあまり重くなく見れる。というか私は子供に弱いのでこの子が詐欺を働くたびに「それもこれも両親の離婚がなければ……」となってしまい完全に詐欺師サイドに感情移入していた。詐欺行為で得たお金も『全てを買い戻してまた父と母と暮らす』という目的があって、でもそれも無自覚というか(嘘で固めた人生のほうが生きやすいのか?と作中で聞かれていた)主に見える感情が「家族とまた幸せに暮らしたい」という無垢なもので、父親と話すときはずっと無邪気にもうすぐ元通りになる、と信じ込んでいるような純粋さに胸を打たれてしまった。

FBIはちょっと抜けてるシーンもあるけれどなかなかガッツがあるし粗野ではない感じで、事件のパートに銃撃戦や爆音のシーンなどのない物静かなこの映画にあっていたと思う。このFBIと青年はなぜかクリスマスによく会話をしていてそれがとてもよかった。途中なんてクリスマスにわざわざ声を聞くために電話をかけてきて、本当に詐欺師の子は寂しがり屋なんだろうな……と思う。作中でもそれなりな人数の女の子と関係を持つのだが、それも寂しさの表れなのかな、と思う。青年時代から成長してもドリンクの好みがミルクのままなのも、どこか幼さを感じてしまう。一貫して『幸せな家庭』に執着しているように思った。

詐欺を繰り返しついに父親に「全部買い戻すから」と告げたところ父から母が再婚したと告げられて心が折れ、もう足を洗いたいというシーンもなんだか切なかった。父親に「足を洗えって言って」と言うシーンとか……このあたりは本人も「足を洗う」と言っていて、それに対して父が「逃げられない」的なことを言った時に返す言葉なので、なんとなく和訳のニュアンスが違う……?と思ったが私は英語がさっぱりなので時間があれば吹き替えも観ておきたかった。(無論ギリギリ視聴なので無念)そのあとFBIに「(静かに暮らしたいから)もう追って来ないで」と電話で頼むのも切なかったなぁ……ここの2人になんだか不思議な信頼関係が生まれているのがとてもよくて、このあたりの感情の機微がこれを名作たらしめているのだろうなと思う。

FBIが最後に詐欺師を捕まえる時に「周りを警官が取り囲んでる。逃げたら撃ち殺されるから手錠をかけさせてくれ」と言った時、詐欺師は「嘘だ」と疑うが最終的に信じて手錠をはめる。で、外にでると誰もいなくて一瞬絶望するんだけど、数秒もしないうちに本当に警官がたくさんあらわれて「嘘じゃなくてよかったー!」となった。ここの嘘で繋がった関係に真実が混じるところが好き。というかFBIは肝心なことは言わないしはぐらかしもするけど青年に嘘を吐かないし(吐いてたかも?)やりとりも年上ムーブだしでこの2人のやりとりがとてもよくて、逃亡して最後一人ぼっちになった青年をクリスマスに捕まえにきたFBIに対して青年がとても嬉しそうに、親しげに話をするところとかすごくよかった。(この少し前に結婚の約束をしたけど警察が突入しそうになったので「午前10時に空港で」と約束した嫁が空港にこなかったのも、そりゃそうだけど愛を求めてた青年からしたら辛かったよね。だから寂しさもひとしおだったんだと思う。)

で、捕まった時一度は逃げ出すんだけど父はもう死んでいることをFBIから聞いていて、ならばと母の元に行ったら母にはもう再婚相手との子供もいて如何にもこうにも……ここすごい切なかったな。「ルドルフとイッパイアッテナ」という児童書を思い出した。彼には親と一度だけでもいいから話したかったのか、それとも親に会えればまた幸せになれるという幼稚な思い込みがあったのかはわからないけれど、本当にイノセントな子だった。

詐欺師は最後囚人になるけどFBIが詐欺師対策チームに入るようにいって、身元引受人にもなってくれる。最後は一度は高跳びしようと思った詐欺師がちゃんと戻ってくるところで〆という感じで、最後のエンディングにはその後の彼の人生が愛に満ちたものであることも記されたので「よかったねぇ……」という感想だ。綺麗に終わるし緩急もあるし鑑賞後もモヤモヤや辛い気持ちがあまりなく温かな気持ちになれて、さすが名作と言われるだけあるな……と納得した。物語で常に詐欺をしているのでパーっとした絵面はないが、そういうのがいい。あとやっぱり詐欺をしている手前、人間の感情というよりも「獲物」の側面というか……騙されていく周囲の人間にそこまで感情を割かなかったので集中できたと思う。結婚式が台無しになった嫁は不憫だったけど。

『幸せになりたい』のではなく『壊れてしまった幸せを取り戻したい』というのが、なんとも子供らしく、健気さすら感じさせ胸を打つ。詐欺パートで悪いやつを騙してスッキリ!FBIとのトムとジェリー!あるいはルパンと銭形!とかそういう類の映画ではなくしっとりとした、愛を求める子供の映画だった。

 

2時間30分あったけど体感120分くらい。やっぱり長かったし体感であっという間だったということはないけれど、パートの切り替えで気持ちが切り替わるし飽きずに楽しめた。150分は長いけど必要な長さだったと思う。ただただ関係性を観たい!という人は詐欺パートを話半分くらいに見ればいいんじゃないかな。それは勿体無いけれど観ないよりはよっぽといいと思う。とてもいい映画だった。